Music
●序章
初めて買ったLPレコードはアグネス・チャンの「フラワー・コンサート」というライブ盤だ。このレコードはアグネス初期の作品でまだほとんど日本語が話せなかった頃のもの。そのためか洋楽のカヴァー曲が多数収録されている。
「サークル・ゲーム」「幸せの黄色リボン」「悲しき天使」「ウィズ・アウト・ユー」などはこのレコードで初めて知った曲だ。また、この頃姉が好きだったフィンガー5のファーストアルバムもジャクソン5のカヴァー曲が収録されており、このあたりが自分の洋楽のルーツといえるだろう。
中学校に入ると本格的に洋楽にのめり込んでいった。
きっかけは近所に金持ちの友達がいて、彼は中学生の分際でロックのLPをすでに何百枚も持っていた。自分はこの友達の家に通い詰め、Beatlesから始まり、現在はオールドと呼ばれるロックを聴きまくった。
自分の家にはステレオがなく小さなモノラルプレーヤーしかなかった。借りてきたレコードは、モノラルプレーヤーのスピーカーの前にラジカセの録音マイクを置いて、じっと黙ること40分!録音したカセットテープは擦り切れるまで聴いた。
そうやって聴いていた雑音まじりの名曲たち。数回のマウスクリックで欲しい曲が手に入いる現在(いま)とは思い入れが全く違う。
全米トップ40は、ラジオ関東(現ラジオ日本)で毎週土曜の深夜に放送されていた、最新ビルボードTOP40を紹介するラジオ番組だ。 ディスクジョッキーは湯川れい子さん。加えて坂井隆夫アナ、矢口清治さん、チャッピーこと山本さゆりさん、スヌーピーこと今泉惠子さんなど、今でも業界で活躍されている方たちが出演していた。
中学から高校にかけて、自分はこの番組を聴きながら毎週チャートをつけることに夢中になっていた。 全米トップ40を聴くようになったきっかけは今でもよく憶えている。
中学の3年生の頃(1976年)、Deep Purple、Led Zeppelin、Cream、当時人気絶大だったKiss、Aerosmithなどのハードロックに夢中になっていた。そんな時、甘ったるいポップスやポピュラー音楽にはほとんど無関心だった自分が、180度方向転換するきっかけとなる出来事があった。
いつものように寝る前に深夜放送を聴こうとラジオをつけたら、流れてきたのは甘ったるいメロディ。 いつもだったら即座にチューニングを変えるのだが、なぜかその時はその甘く切ないメロディに引き込まれていった。そして自然と涙が...。
Chicagoの「If You Leave Me Now 」(愛ある別れ)という曲だ。
曲が終わった後DJが紹介した曲名とアーティスト名を控えて、翌日レコード屋さんにシングル盤を買いに走った。それからは毎日この曲ばかり繰り返し聴いてたのを覚えている。そしてそのシングル盤に「全米No.1ヒット!」と書かれていたのが全米チャートに興味を持つきっかけとなった。
インターネットもない当時、関東地方でリアルな全米チャートを知るには、
①銀座のイエナ書店等に依頼し、Billboard誌の空輸便を年間購読する。
②FEN(米軍極東放送・810MHz)を聴く。
③ラジオ関東(現ラジオ日本)で放送していた「全米トップ40」を聴く。
たぶんこのどれかしか方法はなかったと思う。この中で①は購読料がたしか年間4~5万円位かかったと思うので到底無理。②は英語が分からないのとチャートが1~2週遅れの放送だった。 で、必然的に③の選択となった。
全米トップ40を聞き始めてからは、以前の様にハードロックを聴く事は少なくなり、急速にアメリカンポップスに目覚めていった。ジム・クロウチやバリー・マニロウなど、この番組がなかったら出会う事のなかっただろうアーティストも多い。
初めて聞いた時のNo.1は、6週連続No.1をとったRod Stewartの Tonight’s The Night だった。 ちなみにこの時(1976年11月13日付)のTop10は、
10位 Do You Feel Like We Do / Peter Frampton
9位 The Rubberband Man / The Spinners
8位 Just To Be Close To You / Commodores
7位 If You Leave Me Now / Chicago
6位 Rock’n Me / Steve Miller Band
5位 Muskrat Love / Captain & Tennile
4位 Love So Right / Bee Gees
3位 The Wreck Of The Edmund Fitzgerald / Gordon Lightfoot
2位 Disco Duck / Rick Dees & His Cast of Idiots
1位 Tonight’s The Night (Gonna Be Allright) / Rod Stewart
ラジオで聞いた曲名、アーティスト名をとりあえずカタカナで書き取り、後からMusic Lifeや週刊FMに載っていたTop100チャートを見てノートに清書する、といった作業は3年位続いた。
チャートをつける楽しみ、いい曲を探す楽しみ、最新の音楽情報を知る楽しみ。 音楽を聴く事が何より好きだったあの頃の自分にとって、全米トップ40は忘れられない想い出だ。
こういった音楽の聴き方をしていたため、同世代の音楽好きと話をしても噛み合わない事も多い。
大抵の人は ”アーティスト→アルバム” といった単位で話すが、自分の様にチャートを追いかけていた人間は ”アーティスト→曲” といった単位で考える。実際シングル盤ばかり買ってたので、アルバムはあまり聴いていないのだ。
だが、アルバムから何枚シングルカットされたとか、何週1位になったとか普通の人があまり知らないような事をよく知っている。特に一発屋アーティストとかはかなり詳しい
逆に、何かのきっかけで当時の同好の士に出会うと、情報のソースが限られていたためか、同じ本を買っていたり、同じラジオを聴いてたりでびっくりするくらい共通点が多い。そういった人とは苦労を共にした戦友みたいなもので、すぐ打ち解けた関係になる。
今思うと当時は今の情報化社会と違って、何かを好きになっても情報を集めることは本当に至難だった。
今のように無限にあるソースから自分にあったものをチョイスするというのも便利だけど、やっぱあの頃みたいに手探りで探していく方が楽しいと思う今日この頃。
PS. 番組の最後に湯川さんがいつも言っていた言葉、
「来週まで地面にちゃんとあんよをつけて、星に手をさしのべて待っていてくださいね」
もう一度聞いてみたいな。
●好きなアルバムたち その1
Rumours / Fleetwood Mac
全米トップ40を聞き始めた頃大ヒットしていたアルバム。現在は曲単位で音楽を聴く事が多いのだが、今でもアルバム単位で聴く数少ない1枚。それほど1曲々の完成度が高く、ベストアルバムを聴いているのに近い。77年の初来日武道館に行ったのだが、黒い衣装のStevie Nicksが「Dreams」で舞う様に踊るシーンが今でも目に焼きついている。巨額の富と長い年月をかけて1枚のアルバムを作り、それが桁違いの富を生み出す。「Hotel California」と共にそんな70年代Rockシーンを象徴する1枚
Blow By Blow / Jeff Beck
クロスオーバーというジャンルが無かった時代、この全編インストのギターアルバムは衝撃的だった。「Cause We’ve Ended As Lovers」が名曲としてよく知られているが、自分は「You Know What I Mean」のカッティングや「Scatterbrain」のイントロが好みだ、このアルバム発表直後に来日し、後楽園球場で行われたワールド・ロック・フェスティバルに出演した。本人はインタビューで体調が悪く満足のいかないステージだったと言っていたが、自分的には初めて見たロックコンサートという事もあり思い出深いステージだ。
Sunrise / Eric Calmen
ある土曜の午後、FM横浜を聴いてて偶然流れてきたのが、このアルバムに収録されている「All By Myself」。美しいピアノの旋律と、しつこいほどのサビの盛り上がりに完全に打ちのめされ、即購入した1枚。この曲以外も、「Never Gonna Fall in Love Again」、Shaun Cassidyがカバーして大ヒットした「That’s Rock’n Roll」など、最高のPOPSアルバムに仕上がっている。セカンドアルバムの「Boats Against The Current」もちょっと地味だけどいいアルバムだった。
●Eric Claptonのこと
自分の最初のロックヒーローはエリック・クラプトンだ。
当時は3大ギタリストといって、ジェフ・ベック、ジミーペイジと共に、常にロック好きの話題の中心だった3人だが、見た目含めてとにかくカッコよかったのがクラプトンだ。
初めて聴いたのはお決まりの「Layla」。そこからCream、Blues Breakersあたりまで遡って深みにハマった。3人の中でもブルース色がいちばん強かったのがクラプトン。これがきっかけでDeep PurpleやLed Zeppelinなどのブリティッシュハードロックはあまり興味がなくなり、ブルース系のハードロックを聴くようになった。
音楽的な内容は稚拙な自分が書いてもしょうがないので、ここでは自分のクラプトンへの想いを中心に書いていきたい。
クラプトンの魅力って何だろう?
思うに、きらびやかなロックスターたちの中にあって、その人間臭さが際立っている事かもしれない。
パティ・ボイドとの不倫、デュアン・オールマンやジミ・ヘンドリックスの死、ドラッグ中毒と復活、幼い息子の死、どれもが非常にドラマティックで、その時々の音楽に深い影響を与えている。
パティとの一件から「Layla」が生まれ、友の死のショックから逃れるように、デラニー&ボニーへの傾倒とドラッグ。そしてレインボーコンサートでの奇跡の復活。
息子の不幸な死は、名曲「ティアーズ・イン・ヘヴン」を生み出した。
その時々の生きざまが音楽という形になって、彼の歴史を創り出してきたように思える。
自分がクラプトンを追いかけていたのは1976年「No Reason To Cry」から1985年の「Behind The Sun」あたりまで。いちばん好きなのが、「461 Ocean Boulevard」「There’s One in Every Crowd」「E.C. Was Here」「No Reason To Cry」の4枚の時代で、ジョージ・テリー、カール・レイドル、イヴォンヌ・エリマン等がいた頃だ。
CreamやBlind Faith時代の鬼気迫る演奏とは異なり、一皮向けて力を抜いた雰囲気がたまらない。
クラプトンが30歳前後の頃で、見た目的にも最高にカッコよかった。
初めて生クラプトンを見たのが77年の3度目の来日。実は75年の2度目の来日に行くはずでチケットも持っていたのだが、運悪く足を怪我して入院、幻の生クラプトンになってしまった。
そんな事があったので、77年の来日公演で動いているクラプトンを見た時は感動だった。その当時はDVDはおろかビデオカセットも世の中にまだ普及しておらず、またテレビで外タレが放映される事もめったになかった時代なので、クラプトン好き歴3年の自分も実際に動いているクラプトンをほとんど見た事がなかったのだ。
その後85年あたりまでの来日はすべて見ている。1回見ただけでは満足できず来日のたび2回、3回と見ているので、通算すると10回位は見ていると思う。特に印象に残っているのは、ライブアルバム「Just One Night」としてリリースされている79年の来日公演だ。たしか武道館では2日間の公演だったと記憶しているが、2日続けて見に行ったのであのアルバムはすべて生で体験しているはずだ。アルバムには収録されていなかったが、アルバート・リーの早弾きが凄かったなぁ。
クラプトンを聴かなくなったのは、80年代に入りクラプトンがポップスターになってしまった頃からだ。
自分にとってクラプトンはRock界の巨人、ギターの神様。ビルボードのヒットチャートを賑わす様な存在ではなかった。
ブラッキー(クラプトンがずっと使っていた黒のストラトキャスター)を使わなくなったのも大きい。ブラッキーのあの "枯れた" 音が大好きだったのだが、85年あたりから同じストラトの「エリート」を使うようになってしまった。(老朽化が理由との事だが)
85年の「Behind The Sun」からシングルカットされた「Forever Man」のギターソロを聴いて、「いいソロだな」と思った反面、何か違和感があった。
エリートの音は確かに良い音だ。一般的にはブラッキーより間違いなく万人受けする。だが、スティーブ・ルカサーなら問題ないがクラプトンっぽくはない。ここから急速にクラプトン熱が冷めていった。来日しても観に行かなくなり、アルバムもほとんど買う事はなくなった。
皮肉な事に、このあたりからクラプトンの人気はロック界を飛び越えポピュラーなものとなり、それは「アンプラグド」でさらに確固たるものになる。
<私的 Claptonの3枚>
Layla / Derek and The Dominos
初めて手にしたクラプトンのアルバム。タイトルチューンの「Layla」目当てで友達から買ったのだが、何度も聴く度にこのアルバムの虜になった。デュアン・オールマンのスライドとクラプトンの枯れたストラトサウンドの掛け合いが本当に気持ち良い。「I Looked Away」「Bell Bottom Blues」「Nobody Knows You When You’re Down and Out」あたりがフェイバリッドチューン。
Live Cream / Cream
自分的にはCreamといえばこのアルバムだ。1曲目の「N.S.U.」から「Rollin’ and Tumblin’ 」まで、3人の火花を散らすようなインプロヴィゼーションが本当に凄い。「Crossroad」「Sunshine Of Your Love」「White Room」といった代表曲は収録されていないのだが、ライブならではの3人の白熱したアドリブ・プレイを堪能できる一枚。
No Reason To Cry / Eric Clapton
自分的クラプトンのフェイバリッドアルバム。初めてリアルタイム(発売日)に買ったアルバムというのもあるが、リラックスしたのんびりクラプトンが本当に心地よい。このアルバムを聴いてギタリストとしてだけでなくボーカリストとしてのクラプトンの魅力にもゾッコンになった。「Sign Language」「All Our Past Times」「Innocent Times」あたりがフェイバリッドチューン。